ヤスナガコラム。

「ヤスナガ見聞録」という名前でYouTube活動しています。

四方八方、壁に囲まれた街で。

四方八方、壁に囲まれた街で。

名乗るほどでもないので

僕の名前は、適当に「B」とでも呼んでほしい。

とくに意味はない。考察する必要もない。

血液型と同じくらいどうでもいい、そんな感じだ。

生まれてこのかた、景色というものを見たことがない。

太陽が少し出る日は、青空も少しだけ見ることができる。

でも、ほとんど今日と同じような曇り空だけが

この街を覆っている。

コンクリほど硬くなく、泥ほど柔らかくもない、その壁は

僕らを取り囲んで逃がしてくれない。

この街は、夕立がよく降る。

その壁に付着すると、べったりと粘りっ気の強い性質に変わる。

叶わないことだと思うが

その瞬間だけ、僕らは何か抜け出せるような

そんな淡い期待を持ってしまうのだ。

僕は一度だけ、夜すら眠りについたとき

粘り気のある水滴を舐めてみたことがある。

すっぱい葡萄の味がした。

上空を見上げると、曇りの隙間から、星がこちらをみている。

とても綺麗だ。今にも壊れてしまいそうだ。

もう一度壁を見つめる。小さなハエトリグモが1匹だけ。

よちよちとはるか上を目指して這いつくばっている。

少しだけ勇気をもらった、そんな夜だった。

 

登場人物:壁

    :B(男の子)

    :ハエトリグモ

 

作者:ヤスナガ